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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1667号 判決 1950年6月30日

被告人

千矢多賀喜

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金参千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金貳百円を壹日に換算した期間だけ被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

被告人の控訴趣意(四)について。

(イ)  憲法第三十一条は社会秩序を保持する為に必要とする国家の正当な刑罰権の行使を是認しており事実審たる裁判所が犯人に対し罰金刑を科した場合同時にその不完納の場合における換刑処分の言渡をなすべきことは刑法第十八条第四項の明定するところである。所論の憲法第二十五条が右の場合に、換刑処分の言渡を禁止し、国家の刑罰権の行使に不合理な制限を加える趣意でないことは多言を要しない。されば原判決が諸般の事情を考慮して被告人に対して罰金刑を科すると同時に換刑処分の言渡をしたことは正当であつて論旨は理由がない。

同控訴趣意の(五)について。

(ロ)  憲法第十四条はすべて国民は、人種、信条、性別、社会的身分又は門地等の差異を理由として政治的、経済的又は、社会的関係において法律上の差別的処遇を受けないことを明らかにして法の下に平等であることを規定したものである。しかるに犯人の処罰はかかる理由に基ずく差別的処遇ではなく特別予防及び一般予防の要請に基ずいて各犯罪、各犯人毎に妥当な処遇を講ずるものであるからその処遇の各種各様であるべきことは蓋し当然であるといわねばならぬ(昭和二十三年十月六日最高裁言渡判決参照)

されば原審裁判所が諸般の事情を斟酌した上罰金刑を相当と認めて被告人に対して罰金刑を科すると同時に換刑処分を言渡したからといつてその正当な科刑権の行使を憲法の規定に違反したものであるということはできない。論旨は理由がない。

(被告人の控訴趣意)

四、私は親も兄弟も無い、貯えも財産もない上に一歳にもならぬ赤ん坊を拘えて生活せねばならぬ人間ですが憲法第二十五条は「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定して居るのでありますが、私は左様な生活を為すことが出来ぬで居るのみでなく、罰金一万円の支払などは、どんな事があつても出来ません然し納めぬと私を三カ月と十日間労役場に留置すると判決は申されるのでありますが、之は私を懲役にするのと同じことになるだけでなく私の赤ん坊の養育を奪つて殺しても仕方がないと申されるのと違いがないことになるように思います。之は憲法の精神にも反して左様なむごたらしい裁判は不当であると存じますから服することが出来ませんので御取消し下さい。

五、憲法第十四条では「すべて国民は法の下に平等であつて経済的関係において差別されない」ことに規定されてありますが、財産の有る人が罰金を科せられても、直くに納められて終了しますが財産も金も無い私違の場合は労役場に服務せねばならぬことになりますと法の下に平等でなく、経済関係で不平等な扱いを受けることになりますから憲法に違反した裁判と思います。

殺人の大罪を犯した人でも執行猶予になつた人は何の服役もせぬでよい結果となり私達が罰金を納め得ぬと労役場に留置せられて懲役刑を務めると同じ結果となるということは大変の相違であつて私達の方がもつと重い、苦しい結果になると存じます。それは法の下に平等の待遇を受けぬ事となると思います。之に憲法の精神に反することとなると思います。それですから左様な不平等な無理な罰に処せないで下さい。それで原判決を御取消し下さい。

(註 本件は量刑不当により破棄自判)

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